クラウドERP×BPO×会計事務所 三位一体の連携サポートにより、シンガポール拠点のバックオフィスを2カ月で立ち上げ

[写真]ポーラ化成工業株式会社 シンガポール拠点 管理部門 マネージャー 山口 哲平 氏
化粧品の研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社は、2024年8月にシンガポール拠点を新設しました。バックオフィス1名体制で海外拠点を立ち上げなければならない中、グローバルクラウドERP『multibook』とBPOサービス『マルチブックアウトソーシング』が大きな役割を果たしました。今回は同社 シンガポール拠点 管理部門マネージャーの山口氏に、海外拠点立ち上げにおけるmultibook(会計機能・経費精算機能)およびBPOサービスの活用法とメリットについてお話を伺いました。
導入前の課題
- シンガポール拠点の立ち上げ決定から会計システム導入までわずか2カ月。短期間での導入が必要だった。
- 研究専任の拠点であったため、バックオフィスコストは極力抑える必要があった。
- 一人体制でのバックオフィス運営となるため、内部統制の面でリスクがあった。
multibookを選んだ理由
- 英語・日本語を含む多言語対応が充実しており、現地スタッフと日本本社双方が安心して利用できる環境が整っていた。
- BPOサービスの活用により、一人体制でも内部統制を強化できると判断した。
- 他社ERPではオーバースペックとなりがちな中、multibookは必要十分な機能を備え、優れたコストパフォーマンスを発揮した。
導入後の効果
- 日本本社の複雑な会計ルールとシンガポール現地の会計基準の双方に柔軟に対応できる細やかな設定が可能となり、「小回りの利く」運用を実現。英語での決算書出力により現地法定監査も円滑に完了し、本社およびグループ全体の決算も問題なく遂行できた。
- 銀行振込業務の一部を外部に委託することで、個人の恣意性を排除し、ガバナンス面で安全性の高い支払い体制を構築した。
- 「クラウドERP」「BPOサービス」「会計事務所」が連携した手厚いサポートにより、シンガポール拠点の立ち上げから安定的な運用までを円滑に実現した。
皮膚科学の最前線へ。三拠点研究体制で挑む新時代の化粧品開発
貴社の事業内容とシンガポール拠点立ち上げの背景について教えてください。
当社ポーラ化成工業は、ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担う会社です。
私たちの主要研究である皮膚科学は、高度化・複雑化が進み、競争が激化しています。加えて、従来の化粧品開発にとどまらない新事業に向けた多様な技術開発も求められています。その実現のためには各プロセスに適した場所に新たな拠点を構え、必要な技術やネットワークを現地で調達しながら、質の高い研究開発をスピーディーに推し進めていくことが必要です。そこで2024年に湘南・シンガポール・横浜の「三拠点研究体制」をスタートさせました。
シンガポールは世界中からバイオサイエンスやIT関連の最先端技術が集まる場所です。その地の利を活かし、国立研究機関や大学、機械・材料工学の専門家などと協業しながら新技術の実用化や新事業の検討を行うのが、私たちの役割です。
現在は、その第一弾であるミラースキン™※研究に取り組んでいます。一人ひとりの肌トラブルの原因や肌の反応を詳しく調べ、その人に適した化粧品成分を見つけて提案する、究極のテーラーメイド化粧品の実現を目指しています。
※ミラースキン™:一人ひとりの肌を忠実に再現した培養皮膚組織(オルガノイド)。その人の細胞から iPS 細胞を作製し、皮膚組織に育て上げる。
導入の決め手は「使いやすさ」「コスト」「多言語対応」
multibookのことは、どのように知りましたか。

シンガポールに研究拠点を設立する構想は数年前から社内で始まっており、インターネットを検索して情報収集する中で、multibookのサービス名自体は知っていました。
ただ、直接的なきっかけとなったのは、2023年5月に東京ビッグサイトで開催された人事・経理系システムの展示会でした。数多くの企業が出展していましたが、多言語、多通貨といった海外対応が可能な会計システムを扱っている企業はごく僅かでした。「経費精算だけはできます」というケースはあったのですが、「一連の会計処理のすべてを海外でできる」のは1~2社しかなかったと記憶しています。そのうちの1社がマルチブックでした。
初見での印象はいかがでしたか?
実際にその場でデモンストレーションを受けた際、“操作性のシンプルさ”と“画面のわかりやすさ”が際立っており、非常に好印象を持ちました。とにかく「使いやすそうだ」と直感的に感じたことを覚えています。 シンガポール拠点では、私を除く全員が研究職の社員であり、会計の専門家ではありません。そのため、一般社員にとっても直感的に理解でき、操作に迷わないシステムであることが最優先の条件でした。使いやすさはまさに重要なポイントでした。
他社と比較検討はされましたか?multibookを導入するに至った決め手は何だったのでしょうか。
当グループには他にも海外に拠点を展開する会社があり、それらグループ会社で使用されている会計システムをはじめ、複数社の製品を比較検討しました。
最も重視したのはコスト面です。シンガポール拠点は新技術の実用化を目指す研究拠点であるため、バックオフィスにかかる費用は極力抑える必要がありました。検討した多くの会計システムは当拠点の業務に対して不要な機能が多く、オーバースペックであったため、コスト面で割高となり除外しました。
同等の費用感のシステムもありましたが、最終的にmultibookを選定した最大の理由は「多言語対応」でした。シンガポール拠点での会計処理には英語が必須であるのはもちろん、日本の本社と情報共有し連結決算を行うためには日本語対応も欠かせません。
multibookは英語・日本語を含む12言語で画面表示が可能であり、現地スタッフも本社スタッフも言語面でのストレスなく安心して利用できる点が大きな強みでした。
さらに、「マルチブックアウトソーシング」という経理業務のBPOサービスが提供されていることも導入の後押しとなりました。私一人で経理、人事、購買などすべてのバックオフィス業務を担うのはリソース面・ガバナンス面で困難であり、BPOサービスの活用が可能なmultibookは非常に魅力的に感じました。
拠点立ち上げ決定から稼働までわずか2カ月、スピーディな導入を実現
導入前に不安な点はありましたか?
不安だらけでした(笑)。何より開発期間が極めてタイトでした。拠点立ち上げの意思決定から会計システム導入までがわずか2カ月しかなく、会計システムの導入だけでなく、他にも並行して進めるべき業務が多々ありました。
当グループは12月決算で、9月が第3四半期の締めにあたります。シンガポール拠点を8月に設立し、1カ月後には連結決算に必要なデータを提供しなければなりません。シンガポール拠点の決算にトラブルが生じれば、本社の決算締めが遅れ、ひいてはグループ全体であるポーラ・オルビスグループの決算に影響が出るため、非常に重大な責任を感じていました。何としてもスムーズに導入を完了させなければという緊張感がありました。
結果として、本社およびグループの経理担当部門、日本とシンガポール両国の監査法人、さらにマルチブックの開発チームと密に連携しながら、柔軟かつ迅速に対応できたことが功を奏し、無事に導入を終えて最初の決算も問題なく完了しました。導入前の不安が杞憂に終わり、本当に安堵しています。
どのようなところにmultibookの良さを感じていますか?

現在はmultibookで経費精算と会計処理を行っているのですが、“小回りが効く”ところに良さを感じていますね。
当社独自のルールといいますか、本社側の会計処理に合わせた予算管理や分析の視点が細かく複雑なのですが、シンガポール拠点側でもそれらのルールにしっかり対応できています。
また、導入前から感じていた通り、操作性の良さにも非常に助けられています。加えて、サポート部門の対応力も心強いです。問題や疑問があればすぐに相談でき、その回答もスピーディです。海外で拠点を立ち上げて運営していくとなると想定外の事態が多々発生しますが、そのような状況を理解し、スピード感を持って柔軟に対応してくれるサポート体制はとても有難いです。
BPOサービスを活用し、内部統制を強化
BPOサービスについては、具体的にどのようなことを依頼されているのでしょうか?
シンガポール拠点から取引先への銀行振込の一部業務をお任せしています。具体的には、銀行のネットバンキングシステムに支払いデータを登録するためのデータ作成業務です。
バックオフィス業務を私一人で担っているため、私が支払いデータの作成から支払い処理までを一貫して行う体制では、ガバナンス上の懸念がありました。そこで「支払いデータ作成はマルチブックに任せる」という体制を構築することで、資金の動きに担当者の恣意的な判断が介在しない仕組みを実現しました。
実際、この銀行振込業務の立ち上げは容易ではありませんでした。シンガポールの銀行仕様に合わせたデータ作成が必要であり、初期はスムーズに進みませんでした。しかし、マルチブックの担当者を含めて現地銀行と粘り強く連携し、丁寧に確認作業を進められたおかげで、期日通りに安定した支払い業務を実現しました。
もしマルチブックに依頼していなければ、一人でここまで円滑に進めることは難しかったと思います。心から感謝しています。
BPOサービスの最大の価値は何だとお考えですか?
当社においては、やはり内部統制の強化が最大の価値だと考えています。 私自身がずっと現地でバックオフィス業務を担うわけではなく、将来的には現地で後任を見つけて業務を引き継いでいく予定です。そのため、不正の発生を防ぐ仕組みづくりが不可欠です。クラウドサービスに業務代行(BPO)を組み合わせることで、こうした内部統制をより一層強化できたことが最大のメリットでした。
また、海外の会計処理に精通したマルチブックだからこそ、安心して何でも相談できる点も大きな安心材料となっています。
三位一体の手厚いサポートで「なくてはならない存在」に
マルチブックのサポートについては、どのような印象をお持ちですか。
当初、想定していた以上に力強いサポートをいただいています。
また、マルチブックが現地会計基準に精通した会計事務所との繋がりを持っている点も安心材料でした。決算書作成のアドバイスを得られる会計事務所として、シンガポールに拠点を持つ株式会社AGSコンサルティング(以下、AGS)を紹介いただきました。
会計システムや支払い業務はマルチブック社に迅速かつ柔軟にサポートいただき、決算処理で迷った際にはAGSに親身にサポートいただいています。
このように、「multibook」のクラウドサービス、「マルチブックアウトソーシング」のBPOサービス、そして会計事務所AGSが連携し、シンガポール拠点の立ち上げを力強く支えてくれました。現在、試行錯誤しながらも徐々に安定しつつあるバックオフィス運営ができているのは、間違いなく皆様のおかげであり、私たちにとってなくてはならない存在です。
海外拠点のバックオフィス立ち上げを経験され、ご苦労も多かったのではないでしょうか。
そうですね。今回が当社としても私自身としても初めての海外拠点立ち上げだったこともあり、当初は「何がわからないのかさえ分からない」という状態でした。まるで濃い霧の中を、数メートル先の足元も確かめながら慎重に進んでいるような感覚で、「この先に崖があるのではないか」という不安を常に抱えながらの毎日でした。
購買ひとつを取っても、日本とシンガポールでは商習慣が大きく異なり、日本で当然とされてきたやり方が通用しない場面に幾度となく直面しました。多くの現地企業では先に支払いを済ませるのが常識で、約束した納期に物が届かないことも日常茶飯事です。また、契約書の作成・締結プロセスやその交渉においても、日本のビジネス慣行との違いに戸惑うことが多々ありました。
さらに、現地スタッフの採用やマネジメント、就労ビザの取得、税務当局や各所への登録・ライセンスの取得など、当たり前ですが全てがゼロからのスタートです。制度や文化の違いだけでなく、行政とのやり取り一つをとっても想定外のことが次々と起こり、その都度試行錯誤を重ねてきました。
日本では当たり前に回っていたことが、海外では全く当たり前ではないという事実を、日々改めて痛感しています。これは過去の話ではなく、現在進行形の課題でもあります。まだ立ち上げから1年も経っておらず、これからも当社にとって未知の経験を積んでいくことになると思います。そうした中で何が起きても、柔軟かつ迅速に対応していく姿勢を大切にしたいと考えています。
同時に、決して一人で抱え込まず、multibookやAGSをはじめとする信頼できるパートナーと連携しながら進められることが、何より大きな支えになっています。
本日は貴重なお話をありがとうございます。最後に、今後multibookをどのように活用していきたいかについてお聞かせください。
multibookのおかげで、シンガポール拠点の決算はもちろん、本社の連結決算も滞りなく進めることができています。英語での帳票出力が可能なため、シンガポール基準の決算書を作成し、現地での法定監査も問題なく完了しました。決算関連の業務については、multibookで過不足なく対応できており、大きな安心感があります。
また、支払い業務についてもBPOサービスを活用することで、ガバナンス面でのリスクを回避しつつ運用できています。加えて、私のように現地で一人でバックオフィスを担う立場にとって、AGSのような信頼できる相談窓口があるのは非常に心強い存在です。今後も引き続き頼りにしていきたいと思っています。
まずは、シンガポール拠点のバックオフィス体制を中長期的に安定させることが私の使命です。そのうえで、さらなる効率化も積極的に追求していきたいと考えています。具体的には、現在は研究資材の購買業務や費用の予実管理、経営分析を表計算ソフトで対応していますが、将来的にはmultibookのロジスティクス機能などを活用し、これらの業務をシステム上で一元管理できる体制を構築していきたいと考えています。
[取材に対応いただいた方]
ポーラ化成工業株式会社 シンガポール拠点
管理部門 マネージャー 山口 哲平 氏
[取材・文]
猪俣 奈央子
お客様概要

- 会社名
- ポーラ化成工業株式会社
- 事業内容
- 化粧品、医薬部外品、健康食品の設計開発、生産、出荷